どんなお産でも「自分で選ぶ」ということ
「無痛分娩にしようかな」
妊娠すると、そんなふうに考える方も増えてきました。
日本でも無痛分娩は少しずつ増えていて、日本産婦人科医会の施設報告では、全分娩に占める無痛分娩の割合は2018年の5.2%から、2024年には13.8%となっています。
「痛みを減らせるなら、そのほうがいい」
そう思うのも、もちろん自然なことです。
一方で、
「無痛分娩なら、本当に痛くないの?」
「赤ちゃんへの影響は?」
「お産が長くなるって本当?」
「帝王切開になりやすいの?」
「実際に経験した人はどうだった?」
そんな疑問も出てくるのではないでしょうか。
今回は、無痛分娩について知っておきたいことと、実際に無痛分娩を経験したお母さんから聞いた声、そして私が保健師として大切だと思っている「お産の選び方」についてお伝えします。
そもそも、無痛分娩ってどんなもの?
日本で「無痛分娩」と呼ばれているものの多くは、硬膜外鎮痛という方法を使って、陣痛による痛みを和らげるものです。
背中から細いカテーテルを入れ、そこから鎮痛薬を投与します。
意識を保ったまま、陣痛の痛みを軽減できることが大きな特徴です。
ただし、「無痛」という名前でも、必ずしも痛みがゼロになるわけではありません。
痛みの感じ方や麻酔の効き方には個人差があり、部分的に痛みが残ったり、十分に効かなかったりすることもあります。
そのため、
「痛みを完全になくすお産」ではなく、
「痛みを和らげながらお産をする方法」
と考えておくと、実際のお産とのギャップが少ないと思います。
無痛分娩には、どんなメリットがある?
① 陣痛の痛みを大きく和らげられる
無痛分娩の大きなメリットは、やはり痛みを軽減できることです。
痛みへの不安が大きい方や、痛みによって身体に力が入りすぎてしまう方にとって、痛みをコントロールできることが安心につながる場合があります。
ACOGも、硬膜外鎮痛などの神経軸性鎮痛は、分娩時の痛みを和らげる方法として非常に有効だとしています。
② 疲労や緊張を和らげられることがある
長時間の陣痛による痛みや緊張は、身体的にも精神的にも負担になります。
痛みが軽くなることで、呼吸や会話がしやすくなったり、身体の力を抜きやすくなったりする方もいます。
ただし、
「無痛分娩だから、産後の回復が必ず早くなる」
とまでは言い切れません。
痛みや疲労の感じ方には個人差があり、産後の回復も出産の経過や睡眠、出血、体調などさまざまな要素が関係します。
③ 必要になったときに、痛みへの対応を取りやすい
出産の途中で、予定していた方法とは違う医療的な対応が必要になることがあります。
硬膜外カテーテルが入っている場合には、状況によって、その麻酔を手術のための麻酔に調整できることもあります。
ただし、すべてのケースでそのまま使えるわけではなく、状況に応じた判断が必要です。
無痛分娩にも、知っておきたいことがあります
「痛みが少ないなら、いいことばかりなのでは?」
と思うかもしれません。
でも、どんな医療にもメリットと注意点があります。
① 完全に痛みがなくなるとは限らない
麻酔の効き方には個人差があります。
左右で効き方が違ったり、十分な鎮痛が得られなかったりすることもあります。
だからこそ、
「無痛分娩=絶対に痛くない」
と思っておかないことも大切です。
② 足の感覚や動きに影響することがある
麻酔によって下半身の感覚が鈍くなったり、歩行が難しくなったりすることがあります。
排尿がしづらくなり、カテーテルが必要になる場合もあります。
どの程度動けるのかは、使用する薬剤や量、施設の方針によっても異なります。
③ 血圧が下がることがある
硬膜外鎮痛では、血圧が下がることがあります。
そのため、分娩中は血圧や赤ちゃんの状態などを確認しながら、必要に応じて対応します。
④ 分娩の進み方に影響することがある
無痛分娩では、特に赤ちゃんを押し出す「分娩第2期」が長くなることがあります。
ただし、
「無痛分娩だから帝王切開になる」
という単純な話ではありません。
現在のガイドラインでは、硬膜外鎮痛の種類や開始するタイミングによって帝王切開率が高くなるという明確な結果は示されていません。
お産の進み方は、赤ちゃんの位置や大きさ、子宮収縮、母体の状態など、さまざまな要素が関係しています。
⑤ まれですが、合併症もあります
頻度は高くありませんが、感染、血腫、神経症状、局所麻酔薬による中毒など、重い合併症が起こる可能性もあります。
だからこそ、
「無痛だから安心」でも「無痛だから危険」でもなく、どのような体制で無痛分娩を行っている施設なのかを確認すること
が大切です。
実際に無痛分娩を経験したお母さんから聞いた声
ここまで読んで、
「実際に無痛分娩をした人は、どう感じたんだろう?」
と思う方もいるかもしれません。
私が実際に無痛分娩を経験したお母さんたちから聞いた声をご紹介します。
もちろん、これは医学的なデータではなく、一人ひとりの体験談です。
同じ無痛分娩でも、感じ方やお産の経過は大きく違います。
「本当に快適でした」
初めて無痛分娩をしたお母さんからは、
「初めて無痛分娩をして、本当に快適でした。
産後の回復も早かったです。
きっと普通分娩の痛さは耐えられなかったと思います。」
という声を聞きました。
その方にとっては、痛みが軽減されたことが大きな安心につながり、出産を前向きに経験できたのだと思います。
「痛みへの不安が大きいから、痛みを和らげる方法を選びたい」
というのも、その人にとって大切な出産の選択です。
「無痛分娩にしたけど、全然痛かった」
一方で、別のお母さんからは、
「無痛分娩にしたけど、全然痛かった。」
という声もありました。
その方は、麻酔をしていても痛みが残り、思うようにいきむことができなかったそうです。
赤ちゃんがなかなか出てこず、医師による処置や鉗子分娩など、さまざまな対応が必要になり、最終的に赤ちゃんが生まれたと話してくれました。
そして、
「赤ちゃんの顔は傷だらけで、鎖骨骨折もしていました。」
とも話していました。
この話を聞くと、
「無痛分娩って怖いのでは?」
と思う方もいるかもしれません。
でも、ここで大切なのは、
この一人の体験を、そのまま無痛分娩全体の結果と考えないこと。
ということです。
赤ちゃんの状態やお産の進み方、鉗子・吸引などの処置が必要になるかどうかは、さまざまな要因が関係しています。
「無痛分娩をしたから、この結果になった」と一つの原因だけで説明することはできません。
一方で、
「無痛分娩なら、必ず快適に、思い通りのお産になるわけではない」
ということを知るための、一つの体験談にはなると思います。
同じ「無痛分娩」でも、
「とても快適だった」
という人もいれば、
「思っていたより痛かった」
「思っていたお産とは違った」
という人もいる。
だからこそ、情報を知った上で、自分にとって何が大切なのかを考えておくことが大切なのだと思います。
そして、私が一番伝えたいこと
ここまで無痛分娩について書いてきましたが、
実は私が一番伝えたいのは、
「無痛分娩にするか、しないか」ではありません。
普通分娩でも、無痛分娩でも、帝王切開でも。
どんなお産にも、それぞれの理由や背景があります。
私が大切だと思うのは、
「自分は、どんなお産をしたいのか」
「出産で何を大切にしたいのか」
を、自分自身で考えておくことです。
「痛いのが嫌だから」だけで決めなくてもいい
もちろん、
「陣痛の痛みが怖い」
「できるだけ痛みを少なくしたい」
という気持ちは、無痛分娩を選ぶ大切な理由の一つです。
痛みを和らげることを選ぶことは、決して「楽をすること」ではありません。
ACOGも、医学的な禁忌がない場合、本人の希望は分娩時の痛みを和らげるための鎮痛を受ける十分な理由になるとしています。
だから、
「痛みが怖いから無痛分娩を選ぶ私は弱いのかな」
と思う必要はありません。
一方で、
「痛いのが嫌だから」という一つの理由だけで決めてしまうのではなく、
もう一歩、自分自身に問いかけてみてほしいのです。
「私は何を大切にしたい?」
「どんなふうに赤ちゃんを迎えたい?」
「お産のとき、どんな状態で過ごしたい?」
「もし予定と違うことが起きたら、どうしたい?」
そうやって考えていくと、自分に合った選択が少しずつ見えてくるかもしれません。
どんなお産でも「準備」が大切
私は、出産準備というと、
「入院バッグを準備する」
「赤ちゃん用品を揃える」
「産院を決める」
だけではないと思っています。
自分のこころとカラダを整えておくこと。
そして、
自分が何を大切にしたいのかを知っておくこと。
これも、大切な出産準備です。
無痛分娩を予定していても、早産などによって予定していた方法ができなくなることがあります。
普通分娩を希望していても、母体や赤ちゃんの状態によって帝王切開になることもあります。
出産は、どれだけ準備をしても、すべてを自分の思い通りにできるものではありません。
だからこそ、
「この方法で産む」だけではなく、
「どんな状況になっても、自分なりに選び、向き合えるように準備する」
ことが大切なのではないでしょうか。
「誰かが何とかしてくれる」ではなく、「自分で選ぶ」
医師が何とかしてくれる。
助産師さんが何とかしてくれる。
もちろん、医療者の力を借りることはとても大切です。
出産は一人で頑張るものではありません。
でも、
「全部お任せする」のではなく、
「私はどうしたい?」を持っておく。
私は、そこが大切だと思っています。
「私はこうしたい」
「これは大切にしたい」
「もしこうなったら、こういう選択肢も考えたい」
そんなふうに、自分なりの基準を持っておく。
もちろん、実際のお産では、その通りにならないこともあります。
でも、自分で考えて選んだ経験があれば、
「私はあのとき、自分なりに考えて選んだ」
と思えることが、自分のお産を受け止めるための一つの支えになるのではないでしょうか。
「こんなはずじゃなかった」を減らすために
私はこれまで保健師として、たくさんのお母さんたちの妊娠・出産・子育てに関わってきました。
その中で感じてきたのは、
出産方法そのものだけではなく、
「自分が納得して選べたかどうか」
が、その後の気持ちにも関わってくることがあるということです。
もちろん、自分で選んだからといって、必ず後悔しないわけではありません。
出産には、予測できないこともあります。
でも、
「みんながそうしているから」
「病院に言われたから」
「家族にすすめられたから」
だけではなく、
「私はこう考えて、この選択をした」
という経験は、自分のお産を自分のものとして受け止めるための一つの支えになるのではないかと思います。
「理想のお産」は、方法だけでは決まらない
「普通分娩がいい」
「無痛分娩がいい」
「できるだけ自然なお産がいい」
「安全を第一に考えたい」
どれも、その人にとって大切な考え方です。
そして、途中で気持ちが変わってもいい。
状況が変われば、選択を変えてもいい。
大切なのは、
「こうしなければならない」という正解を探すことではなく、
「私は何を大切にしたいのか」を知っておくこと。
その上で、医師や助産師など専門家の説明を聞き、自分に合った方法を考えていくことです。
自分しか、この子を産むことはできないから
普通分娩でも、無痛分娩でも、帝王切開でも。
どんなお産になっても、
赤ちゃんを産むのは、自分です。
だからこそ、
「医療者が何とかしてくれる」
ではなく、
「私はどうしたい?」
を、妊娠中から考えてみてほしい。
自分のこころとカラダを整える。
自分が大切にしたいことを知る。
いろいろな選択肢を知る。
そして、そのときの自分と赤ちゃんにとって必要な選択をする。
それが、私が考える「出産準備」です。
自分しか、この子を産むことはできない。
だったら、
少しでも自分らしく、心地よく、その時間を迎えられるように。
「どんなお産にしたい?」
その答えを、誰かの正解ではなく、
自分自身の中から見つけてみませんか?
出産に「正解」はありません
無痛分娩を選ぶことも、選ばないことも。
途中で気持ちが変わることも。
予定していた方法とは違うお産になることも。
どれも、出産の一つの形です。
大切なのは、
「どのお産が正解か」ではなく、
「私は何を大切にして、このお産を選ぶのか」。
情報を集めるだけで、ますます迷ってしまうのではなく、
知って、考えて、選ぶ。
そして、
「わが家はこれで大丈夫」
と思える、自分なりの出産準備をしていきませんか。
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